大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和33年(ワ)4133号 判決 1960年5月11日

事実

原告は、被告会社が昭和三三年七月二五日振り出した金額二〇〇、〇〇〇円、支払期日同年八月二〇日とする約束手形一通を受取人訴外種村鷹義から裏書譲渡を受けた所持人である。その支払を求めると主張。

被告は右事実を認め、抗弁として「被告会社の代表取締役叶田善一は、被告会社設立前の昭和三三年五月頃、個人の資格において、種村鷹義を介して原告から約四〇〇、〇〇〇円の融通を受けることになり、その支払確保のため、振出人叶田善一、受取人種村鷹義とする額面合計四〇〇、〇〇〇円の三通の約束手形を振り出したが、その未払手形の書換手形として、被告会社及び叶田善一は、本件手形を共同振り出したものである。(一)被告会社の右手形振出行為は、共同振出人たる被告会社の代表取締役叶田善一の手形債務を保証する目的でなされたものであるが、商法第二六五条により取締役会の承認を経ていないから無効であり、手形取得者たる原告の善意悪意を問わず対抗できる。(二)仮に善意の取得者に対抗できないとしても原告は右事情を知つていた、知らなかつたとしても、重大な過失があるから、右手形の振出行為の無効を原告に対抗できる。」と主張した。

原告は右抗弁を否認した。

理由

原告主張事実は当事者間に争がなく、表面の部分については成立に争のない甲第一号証(約束手形)によれば、被告会社の代表取締役叶田善一は被告会社を代表し、他方個人の資格において、原告主張の約束手形を共同振出したことが認められる。

被告は、被告会社の右手形振出行為は、共同振出人たる右叶田善一の手形債務を保証する目的でなされたものであつて、商法第二六五条により取締役会の承認を経ていないから無効であると主張するが、商法第二六五条は、取締役個人と株式会社との利害相反する場合において、取締役に利益で会社に不利益な行為がみだりに行なわれることを防止する規定であるから、右法条にいわゆる取引中には、取締役と株式会社との間に直接成立する利益相反行為のみならず、取締役個人の手形債務について株式会社が手形保証をなすが如き取締役に利益であつて会社に不利益を及ぼすと認められる行為も包含するものと解すべきであるけれども、株式会社の手形行為が右法条にいわゆる取引に当るかどうかは、その手形行為自体によつて決すべきであつて、その手形行為の根源たる事由、すなわち動機、原因関係に遡つて会社に利益であるかどうか、取締役に利益であるかどうかによつてこれを決すべきものでないと解するを相当とする。従つて、被告会社の代表取締役叶田善一が被告会社を代表し、他面個人の資格において原告主張の約束手形を訴外種村鷹義宛に共同振出し、同訴外人はこれを原告に裏書譲渡した本件においては、被告会社の右手形振出行為が、被告の主張するごとく、隠れたる手形保証の目的を以てなされたものであつても、手形法は隠れたる手形保証なる特殊の手形保証を認めていないので、手形振出行為とみるほかなく、その隠れたる手形保証の目的、すなわちその動機、原因関係に遡つて決すべきでないこと前述のとおりであるから、被告会社の右手形振出行為自体によつて商法第二六五条にいわゆる取引に当るかどうかを決すべきところ、被告会社の右手形振出行為は、その所持人に対し手形上の債務を負担する意思表示であつて、その効果を共同振出人たる代表取締役叶田善一個人のために発生せしめるものでないから、右振出行為それ自体としては被告会社に不利益で代表取締役叶田善一個人に利益である関係になく、右法条にいわゆる取引に当らないというべきである、従つて被告会社の手形振出行為が右法条にいわゆる取引に当り、取締役会の承認を経ていないから無効であるとする被告の主張は首肯しがたく、被告の右主張は主張自体理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例